金融資産の相続で「後悔しないために」

金融資産の相続で「後悔しないために」

50~60代が今から考えるべきこと

不動産に比べると見落とされがちですが、実際の相続では預金・株式・投資信託・保険などの「金融資産」が大きな割合を占めるケースが多くあります。
特に、50代・60代の方にとっては、「これから相続する」「子どもに相続させる」という両方の立場で関わることが多くなる時期です。

今回は、金融資産の相続に関する基礎知識と、よくある落とし穴、そして税制改正による注意点まで、今知っておきたいポイントを総まとめでお届けします。


金融資産とは、次のような財産を指します。

金融機関の相続とは~意外にトラブルになりやすい財産

金融資産とは、次のような財産を指します。

預貯金(普通預金・定期預金)

株式・投資信託・債券

生命保険金(契約内容による)

仮想通貨・FX口座

貸付金・未収配当などの金銭債権

これらの資産は「分けやすいからこそ揉めやすい」特徴があります。
たとえば、長男が親の介護をしていたから多く受け取るべきだ、という主張が出ると、「均等に分けよう」という他の相続人と対立することも。

相続手続きの流れ(金融資産編)

金融資産は、以下のような手順で相続されます。

金融機関に連絡(死亡届・口座凍結)

残高証明書を取得

遺言書または遺産分割協議の実施

相続人全員の同意書を添えて解約・名義変更

銀行・証券会社・保険会社など、手続き先が複数になると、書類の取り寄せ・押印・郵送が重なり、数か月〜1年かかることもあります。

相続評価の「時点」に要注意

●相続税の計算では「相続開始日(死亡日)」の金額が基準
たとえば、株式や投資信託はその日の終値などで評価されます。

● 実際の分割は「手続時点の価値」になる
つまり…

相続税は死亡日の価格で固定

相続人が受け取る金額は後日の価格で変動

というズレが起きます。

例)
死亡時の株価:1,000円/株
実際の分割時:800円/株

この場合、相続税は1,000円で計算されますが、現実に受け取れる価値は減っています。
逆に株価が上がって売却益が出ると、譲渡所得税も課税される可能性があります。

暦年贈与の「7年加算」に制度変更

かつては、生前贈与を110万円以内に収めていれば非課税となり、3年以内の贈与だけが加算対象でした。

しかし令和5年度の税制改正により、2024年以降の贈与は「最大7年以内」まで相続税の課税対象に加算される制度に変更されました。

● 段階的に加算対象が広がる
贈与した年 相続時の加算対象
2024年 4年以内
2025年 5年以内
2026年 6年以内
2027年~ 7年以内

よくあるトラブルと回避策

●「相続前に勝手に預金を引き出された」
銀行口座が凍結される前に、一部の相続人が勝手に預金を引き出してしまうケースも。
このような場合、他の相続人との公平性を損なうため、「特別受益」として調整が必要です。

● 株式や証券の名義変更に手間取る
証券会社によって手続きや必要書類が異なるため、早めに確認し、遺産分割協議書や印鑑証明を揃えておくことが大切です。

● 仮想通貨やネット証券の存在が不明
デジタル資産は、家族が気づかないまま失われてしまうリスクがあります。
アカウント情報や資産の一覧は、エンディングノートに記載するなど「見える化」しておくことが重要です。

金融資産の相続を円満に進めるための3つのポイント


✅ 資産をリスト化しておく(家族にわかる形で)
銀行・証券・保険・電子マネー・仮想通貨など、どこに何があるかを明示しておきましょう。

✅ 相続時の評価と分割時の価値のズレを理解しておく
できれば分割や換金のタイミングでも損しないよう、資産内容に応じて柔軟に対応できるようにしておきましょう。

✅ 生前贈与の計画は、制度改正を踏まえて専門家に相談
特に2024年以降は「7年加算」が始まるため、相続税対策としての贈与は、もう「110万円ルール」だけでは不十分です。

まとめ
50代・60代の今こそ、相続の「もめ事を防ぐ準備」として、金融資産の管理と見直しを始めるべき時期です。

相続は突然やってきます。
しかし、後悔しない相続は「今の準備」から始まります。

ご自身の資産をどう残すか

ご両親の財産をどう受け継ぐか

それぞれの立場で、金融資産という目に見えやすいけれど、評価や扱いに注意が必要な財産について、一度向き合ってみてはいかがでしょうか。

※当事務所では、金融資産を含む相続のご相談を幅広く受け付けています。
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