不動産の相続対策

不動産の相続対策

2024年6月8日

遺産が住んでいた住宅だけ

分割面での対策

遺産に不動産がある場合、それを相続人で分けるには、事前対策が必要なことが多いでしょう。
なぜなら、不動産自体は、極めて分割に向いていないからです。
遺産が住宅だけというケースであれば、相続人が3人いたとして、それを単純に3つに分割するわけにもいきません。
「長男は、1階のリビングとキッチン、次男は1階の洋室と2階の和室と洗面所、長女は1階和室と、浴室、それと2階の洋室ね。」
こんな分け方ができればいいのですが、とても現実的ではありません。
又、不動産には共有という方法があります。
持分で登記(名義を法務局に登録することです。)するのです。
長男は2分の1 次男と長女は4分の1ずつとかにする方法です。
理屈としては、これで分割したことになりますし、手続きとして間違っているわけでもありません。
しかし、この方法も現実的でなく、将来のトラブルを生む元になってしまう方法です。
共有物の管理行為(賃貸、改修等)は、共有者の過半数の同意、処分行為(売却、建て替え、造成等)には共有者全員の同意が必要です。
つまり、何かしようとしても、他の相続人の同意を得ることができなければ、何もすることはできないのです。

現実的な方法(代襲分割)

現実的な方法としては、まず相続人のうち誰かひとりの名義にします。
そして、その他の相続人には、その相続分に見合うだけの金銭を渡します。
ただ、この場合はそれだけの金融資産が遺産としてあることが前提です。遺産にそれだけの金融資産が無い場合は、不動産を相続した相続人が、自分の相続分を超過する部分について、他の相続人にお金で支払う方法もあります。(代償分割)
これはこれで、不動産を相続した相続人にそれだけの金融資産がなければできない方法です。

現実的な方法(換価分割)

その他の方法としては、相続した不動産を売却して、売却した代金から、売却に要した費用を控除した金額を相続人間で分けるという方法です。(換価分割)
相続した不動産に住む必要がなく、売却という処分に相続人全員が同意すれば可能な方法です。
売却金額をどうすればいいのか、その場合の各相続人が手にするお金は具体的にいくらくらいなのかは、事前に計算しておかなければなりません。
この方法は、売却しやすい不動産ならそれほど苦労なく売却できますが、そうでない不動産(地形が変形、道がない、山林、すごく不便な場所、リスクの高い立地等)の場合は簡単ではありません。
希望通りの価格で売却できるという保証はありませんので、かなり時間がかかることになり、最悪売却できないということもあり得ます。

このように、遺産が住宅だけの場合は、現実的な方法を考えたとしても、それには多くの壁があることに気が付きます。実際はそういうケースも多いはずです。
ただ、それでも事前にできる対策もありますので、具体的にお悩みの場合は、個別に相談を受け付けしております。

遺産が土地だけ

遺産が土地だけの場合もあります。
土地にはいろいろな種類がありますので、種類別に考えていきます。

宅地の場合

宅地の場合で更地であれば、問題はなさそうですが、そうとばかりは言い切れません。
土地の価値を決めるのは、接道条件です。つまりどんな種類・幅員の道に、どんな状態で接道しているかということです。
土地が一つで、相続人が3人の場合で、均等に接道条件を同じにして、分筆(土地を物理的に分けること)ができればいいのですが、同条件で分筆できる土地は限られています。
ほとんどの場合、同じ面積で分筆したとしても、資産価値的に有利な場所と不利な場所に分かれてしまいます。
つまり、分割(分筆)の方法によって、接道条件に違いが生まれ、そこで有利・不利が発生するということです。単純に3つに分割すればいいというものではありません。
現地の状況をよく確認して、最適な分割(分筆)法を考えてください。

農地の場合

農地(田・畑)を所有している人が亡くなられた場合は、その相続人は農地を相続することになります。
通常、農地の名義移転には、農地法により、市街化区域内の農地であれば届出・市街化調整区域内の農地は許可が必要です。又、農地を譲り受ける人には営農条件(農業に一定の規模で従事していること)があり、誰でも農地を譲り受けることはできません。
しかし、相続で農地を譲り受ける場合には、どこであっても農業委員会に届出をすればいいだけです。
尚、この届出は義務です。(農地法3条の3)
ただ、今まで農業経験のない人が農地を譲り受けても急に農業をすることはできません。
この場合、農業員会によって、その農地を貸借するあっせんをしてくれます。その他JAや自治体の窓口等に相談して、貸借の仲介を依頼する方法もあります。
さらに、農地として相続し、それを転用(農地以外のものにすること)目的で売却することも考えられます。農地の立地によっては、それも可能です。
転用するためには、市街化区域内の農地であれば農地法5条の届出、市街化調整区域内であれば農地法5条の事前許可が必要です。この許可を得ることにより、例えば農地を宅地分譲地にするために不動産業者に売却するということができます。
このように転用・宅地化できる農地もある反面、場所によっては宅地化が不可能な農地もあります。
農地としての評価はそれほど変わらないとしても、その転用可能性まで考えた場合、その経済的価値は大きく異なることになります。
農地を相続する場合は、相続人間でその部分まで含めた共通認識を得ておくべきです。
農地の状況により一概には言えませんが、転用可能な農地とそうでない農地にわけて、農地の相続について協議します。

山林・森林の場合

相続した不動産に山林・森林が含まれる場合、まずその所在自体がわからないことがあります。
そもそもどこからどこまでがその範囲なのか?
その境界は専門家が確認しないとわからないケースも多いです。
そして、そもそもその山林・森林に経済的価値がどこまであるのか?有名な樹木の種類であれば、それなりの価値はあるでしょうが、そうでなければ山林・森林自体の価値は低いのが通例です。
価値があろうとなかろうと、所有者には管理責任があります。
平成23年の森林法の改正により、売買や相続により地域山林計画対象内の森林の所有者となった方は、所有者となった日から90日以内に、その森林のある市町村長まで届出の義務が制定されています。
このため、森林の相続があった場合は、場合によっては、相続放棄を考えることも一つです。
ただ、相続放棄しても、その森林の管理者、承継者が決まるまでは、相続放棄した人にその管理責任が残ります。また、相続放棄することにより、他の相続人の負担が増えますので、慎重に考えたほうがいいでしょう。
又、令和5年4月27日より、相続土地国庫帰属制度がスタートしました。
これは、一定の条件を満たす相続した土地について、国が買い取る制度です。ただ土地に条件がありますので、何でも買い取ってもらえるわけではありません。
これが申請できるのは、原則相続人のみです。
山林自体に価値を置かないようであれば、上記のような方法を模索しながら、手離れを考えることもありでしょう。

遺産が賃貸マンションやアパートの場合

相続した不動産が、収益を生む不動産、つまり賃貸マンションや賃貸アパートの場合を考えます。
この場合、相続した不動産から生じる家賃等の収益は、その不動産を相続した相続人のものになります。
但し相続発生から、遺産分割協議が済むまでの家賃は、相続人全員で分ける必要があります。
ただ、それを運営する管理責任、運営経費支払いの責任も相続した人の責任です。
そのため、収益マンション、収益アパートを相続する場合は、そのあたりを考えてするべきです。
管理もそれ相応の精神的な負担もあります。管理会社丸投げでは、なかなかうまく進まないのが現実です。
又、収益不動産が収益を生むとも限りません。未収家賃があったり、経費が大きくなれば、赤字になることも考えられます。
そうなれば、負債を生む不動産を相続したことになります。
このように、さまざまな面から検討が必要なのが、収益マンション、アパートです。
ご自身で考えて、よくわからなくなった場合は、ご相談ください。

上記は代表的なものを書きましたが、その他、不動産には、まだまだいろいろな種類があり、それを相続する場合、各不動産別に注意点が存在します。
当事務所では、不動産に詳しい行政書士として、そんなご相談をお受けしております。
ご相談希望者は、電話又はフォームにて、お問合せください。
内容をお聞きした上で、適切なアドバス、対応をさせていただきます。