民亊信託(家族信託)という選択肢

民亊信託(家族信託)という選択肢

堺市、相続コンサルタント・行政書士の岡田です。
今回は、民事信託(家族信託)という選択肢について考えてみます。

以前と比較して、民事信託(家族信託)という言葉が一般の方にも知られるようになりました。
テレビやWEBの力が大きいなあと感じます。

民亊信託(家族信託)と商事信託の違い

民事信託と家族信託は実は同じ内容です。
人によって民亊信託と言ったり、家族信託と言ったりしています。
民亊信託が一般呼称で、家族信託はその特別名称とも考えられます。
『信託法』という法律にてその内容が決められています。

それに対して『商事信託』が存在します。
これは信託銀行の業務と言えばイメージがし易いと思います
これは信託業法に基づき、ビジネスとして行う信託業務です。


民亊信託(家族信託)と商事信託は『信託』という部分では同じですが、その性質は全く異なります。
信託銀行の信託はあくまで営利目的のビジネスの手法です。
それに対して民亊信託(家族信託)は、家族のために行う営利を目的としない信託です。

それでは、信託とは何でしょう。
名前からも推測されると思いますが、それは信じて託すことです。
何を託すかと言えば、自分の財産です。

自分の財産を信頼できる個人や法人に、財産の管理や運用・処分を任せることです。
それをビジネス目的で行う場合が商事信託、ビジネス目的ではなく信託の依頼者(委託者といいます。)のために管理・運用・処分する場合が民亊信託(家族信託)です。

信託は何のために行うのか?

今回は民亊信託(家族信託)のお話ですので、そちらを中心に説明します。
人には寿命があり、必ずいつか死にます。
ただ、平均寿命が延びた今日、健康寿命の限界は、死亡する前に来ることが多くなりました。
健康寿命の定義はいろいろあるようですが、ここでは自分の意思で判断して、人のサポートを受けながらでも、社会生活の一定以上の課題に対応できる年齢の限界としておきます。

又、生まれながら、或いは後天的に心身の障害がある人がいます。
この場合でも、自分の意思で社会生活上の課題の判断ができる力がある場合でしたら、人の力を借りながらでも、生きていくことは十分できます。
しかし、それができない障害をお持ちの人もいます。

高齢になり、健康寿命の限界が来て、例えば認知症を発症したり、アルツハイマー病になったりした場合、その時、所有している財産があったとしても、もう自分ではそれをどうすることもできません。
本当はその財産を今後何かの目的に使う計画があったかもしれません。
しかし、認知症になって正常な判断ができなくなれば、その計画はもう自分では実現することができなくなります。

障害持って生まれてきた子供がいる場合、親が元気なうちは、その子のために頑張ることでしょう。
しかし、親の方が先に亡くなるのは、自然の摂理です。
親が子供のために貯蓄していた財産があったとして、そして何か使用目的があった場合、子供がそれを相続したとしても、その子供自身ではその財産をどうすることもできません。

このような場合に、民事信託(家族信託)が役に立ちます。
信託の主な役割は、そういったの財産の管理・運用・処分を信頼できる人(受託者といいます)に預けて、自分の代わりに、なるべく自分が希望する方法で、行ってもらうことです。

任意後見契約ではいけないの?


民事信託(家族信託)と少し似ている制度に『任意後見契約』があります。
任意後見人の役割は、やはり本人の認知能力・判断能力に問題が生じたときに、本人の代理人となって本人の生活上の手続きや、財産の管理を行うことです。
身上監護(身の回りの生活に関する手続き関係)と財産管理(本人の財産の管理)があります。
民亊信託と任意後見契約制度は、重なる部分もありますが、その目的が異なります。

任意後見人の財産管理の権限はかなり制限されていて、基本的に任意後見監督人、裁判所の許可がなければ不動産売買等の法律行為はできません。管理はできるが運用・処分に関してはかなり消極的な制度です。
そのため、本人(信託では受益者といいます。)の所有財産が多く、財産活用の計画がはっきりしていて、その意向が強い場合は、積極的な財産の活用・運用が可能である民亊信託(家族信託)を採用すればいいでしょう。

ただ身の回りのことに関する手続き(身上監護)を信託ではすることができませんので、その心配がある場合は、任意後見契約を同時に行い、その契約内容に定めておけば安心です。
尚、任意後見契約制度の他に法定後見制度があります。これは視点が異なる制度ですので、別の機会に説明します。
一般的に任意後見は法定後見に優先します。

本人(受益者)の置かれている状況、所有財産、考え、家族関係によって、採用すべき方法は異なりますので、熟慮の上決める必要があります。

信託のその他のメリット

民亊信託(家族信託)について、大まかなイメージがつかめたと思います。
実は信託には、その他の機能がたくさんあります。
信託法は民法の特別法になるため、民法に優先します。
そのため、民法の中ではできなかったことが、信託法では可能になることがあります。

例えば、遺言機能の拡大です。
遺言は民法に定められていて、15才以上の人なら誰でもすることができます。
遺言の目的の多くはやはり、財産のことになります。(一部その他の内容もあります。)
「自分の財産のあれとこれを、○○と△△に相続させる」という意思表示で、民法に決められた方法、書式があります。その方法を守っていない遺言は無効です。
ただ、遺言の場合、○○と△△といった、一代限りの内容しか有効になりません。
○○が死んだら、その次はそれを、□□に相続させると書いてもれは意味をもちません。

しかし、信託ではそれができてしまうのです。
正式には相続ではないのですが、実質的に相続したことと同じ効果になり、更に民法の相続制度よりもより、細かな指定ができるのです。

その他、民事信託(家族信託)にはいろいろな活用法があります。
みなさんの事情に合わせて検討されてみてはいかがでしょうか。
当事務所では、そんな民亊信託(家族信託)のご相談もお受けしています。
ちょっと最初はわかりにくいのでなるべくわかりやすく説明させていただきます。